2010年05月01日

悲劇の大発明 八木アンテナ

各家庭の屋根に魚の骨のようなTVアンテナが掲げられています。あのTVアンテナは「八木アンテナ」といって、日本人による世界的な大発明だそうです。とかく日本人は独創性がなく発明が少ないと揶揄される為、日本人による発明と知った時は、何か誇らしく感じました。
しかし、その歴史を知るにつれ、その影の部分というか悲劇の部分がある事を知ってしまいました。

「八木アンテナ」が発明されたのは大正14(1925)年、東北帝国大学工学部長の八木秀次が40歳の時の事です。
第一次世界大戦によって開発・実用化に拍車がかかる軍用長距離無線通信や電波航空航法ですが、そこで求められたのが指向性に優れたアンテナでした。1920年代末まで使われていたものは、”指向性もある”といった程度で能力不足でした。そのような中で本物の高性能指向性アンテナ、「八木アンテナ」が発明されます。正しくは、八木が理論をまとめて宇田新太郎東北大講師に実用化研究が任されたので「八木・宇田アンテナ」と言うらしいです。

「八木アンテナ」は「指向性アンテナ」として特許が申請され、『電気学会雑誌』にも発表されます。しかし、帝国大学間の派閥意識が根底にあったのか、反響はまったくなく学界からは無視される形となりました。
そして、その3年後、八木はニューヨークで開かれたIRE(アメリカ無線技術者協会)の総会で指向性アンテナの研究を発表します。そこでは日本の学界では信じられないような高い評価を受けます。そのときの八木の講演録は1928年6月号の『IRE会誌』に掲載され、世界の電波技術界を熱狂させます。

世界が第二次世界大戦へと進む頃、先進各国では八木の指向性アンテナの原理を応用し、着々とレーダーの開発を急いでいました。ところが、日本はその重要性を理解できず、大東亜戦争に突入した後も、「敵を前にして電波を出すなど、闇夜に提灯を灯して自分の位置を敵に教えるようなものだ」との伝説が残るほど、相手にしなかったといいます。さらに昭和16(1941)年、八木は指向性アンテナの特許期限の延長を申請しましたが、「重要な発明とは認め難いので、特許を無効とする」との通知が届きました。

昭和17(1942)年4月、シンガポールを攻略した日本軍は、イギリス軍基地から電探(レーダー)2基を押収しました。この時、ゴミ焼却炉の燃えかすの中から、偶然にも一冊のノートが発見されます。表紙にはレーダー技師のニューマン伍長のサインがあり、中には詳細なメモが記されていました。もしかするとレーダーのマニュアルなのではないか? ノートは直ちに南方軍兵器技術斑で翻訳され、秘密裏に内地に輸送されました。兵器本部の技術将校たちは、喉から手が出るほど欲しい敵の電波兵器に関する資料を、目を皿のようにして熟読します。
ところが、そのニューマン・ノートには、“YAGI”という意味不明の単語が頻繁に出てきます。どうやらアンテナの形を指しているらしいのですが、「ヤギ」なのか「ヤジ」なのか、読み方すら分かりません。
そこでシンガポールの収容所に捕虜として捕えられていたニューマン伍長を探し出し、“YAGI”とは何かを尋ねます。するとニューマンは、キョトンとした顔をして「あなたは、本当にその言葉を知らないのか。YAGIとは、このアンテナを発明した日本人の名前だ」。尋問に当たった技術将校は絶句しました。

大東亜戦争も終盤に差し掛かると、空でも海でも、日本軍お得意の夜戦であろうとも連合国軍に歯が立たなくなります。最後には、本当に「家族を守りたい」、「国を守りたい」、との気持ちで飛び立った人も多かったであろう特攻隊も殆ど撃ち落とされる結果となります。何一つ病気のない健康体の二十歳前後の若者が、一度飛び立てば、数時間後にはこの世からいなくなります。残りの数時間に自分の全人生を燃焼させますが、迎撃機や対空砲火に全身に銃弾を浴び、操縦席も火の海となって墜落して行きます。これもレーダーにより事前に察知されていた為です。
日本中を爆撃して焼け野原にしたB29や護衛戦闘機のP51にもレーダーは取り付けられ、日本軍の迎撃を寄せ付けませんでした。それどころか、広島や長崎に落とされた原爆にも電波高度計に改造されたレーダーが装着されていたのです。

戦後、昭和28(1953)年2月にはNHK東京テレビ局が、9月には初の民放となる日本テレビが本放送を開始しました。
国民はみんな力道山や野球中継に夢中になります。「八木アンテナ」は日本中の屋根を覆い、その本来の平和的な使命を果たしたのでしょう。











posted by しきしま at 19:21| Comment(8) | TrackBack(1) | 昭和 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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八木アンテナの記事大変興味深く拝読しました。
日本にレーダー技術があれば一方的殺戮のような戦闘場面はもう少し軽減されたのではないかと日々思っていました。
そんな中、揚子江中流域で活躍した陸軍飛行隊長の遺族の方から「空中戦を無線で実況中継して司令部に伝えた」エピソードを伺った経験があり、一般的に伝えられていることより当時の日本人の発想や着眼点が進んでいたと感じています。そして現在、昨日テレビで観たレアメタル入手困難な状況、資源・素材がアキレス腱である事実は今も過去も変らず、日本の資源は「人」であることを痛感しています。
その資源(八木さんの発明を活用できなかったことも含めて)を大戦中の一方的殺戮のように失ったことは大きな損失と感じています。
Posted by 関東の誠 at 2010年05月02日 09:53
TITLE: YAGIアンテナ
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こんにちは。
今日、当たり前のように、屋根の上に並ぶアンテナについて、そのような歴史があったとは。。。 とても勉強になりました。

せっかくの技術や知識があっても、それを受け入れられないというのは悲しいことであり、愚かなことですね。
このことからも、先の日本の敗戦は、自明であった。

過去の歴史からしっかり学び、今そして未来に活かしていかねば、と思います。
はたして、今の日本は大丈夫でしょうか。。。

歴史は繰り返される。。
Posted by JJSG at 2010年05月02日 10:21
TITLE: 関東の誠さんへ
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コメントありがとうございます。

仰る通り、実は戦後流布されているほど、日本軍は精神力一辺倒の非科学的で、過去の戦訓を学ばない軍隊ではなかったようです。やはり総合的な国力の観点から、色々な意味で「ないものはない」のが実情だったと思われます。
但し、レーダーに関しては、日本人の発明で世界が認めていながら、これを有効活用出来なかったのは、反省して教訓とすべきかとは思います。
「人が資源」というのも同感の到りです。教育の大切さは昔も今も変わらないと思います。
Posted by スカイラインV35 at 2010年05月02日 19:31
TITLE: JJSGさんへ
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コメントありがとうございます。

本当に日本人の発明で日本人の命が大量に失われた歴史は、皮肉を通り越して悲劇であり愚かな事だと思います。
そのような多大な犠牲の上に、今日の豊かな日本があるという事は、忘れてはならないと思います。
歴史は繰り返される、という事もあるかもしれないので、それこそ色々な方面にアンテナを張り巡らせたいですね。
Posted by スカイラインV35 at 2010年05月02日 19:40
TITLE: No title
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こんばんは。

八木アンテナ?アンテナはいつも見ているのに知りませんでした。
凄い発明ですね。
日本人の発明を認めたのが日本人ではなく、当時敵国だったアメリカとは皮肉なものですね。
興味を持って読ませていただき、とても勉強になりました。
Posted by 吉田彦九郎 at 2010年05月04日 23:19
TITLE: 吉田彦九郎さんへ
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コメントありがとうございます。

第二次大戦はレーダーにやられた印象がかなり強いですからね。
日本にとっては、本当に皮肉というか悲劇だと思います。
こういう例は、探せば他にあるかもしれないですね。
Posted by スカイラインV35 at 2010年05月05日 01:55
TITLE: No title
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八木アンテナは
日本がいかに自国の発明にたいして
軽んじていたのかがわかる事例でした。
青色LEDの特許訴訟で
ようやく発明者の権利の保護が
見直されましたが
まだまだ十分とは言えません。

八木アンテナの教訓を
いかさなくてはと思いました。
Posted by 山本正彦 at 2010年05月05日 11:05
TITLE: 山本さんへ
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コメントありがとうございます。

仰るとおりだと思います。
欧米の先進技術を追いかけるあまり、自国の技術を疎んじていたのかと勘繰りたくなるような事例ですね。
今後に生かさなくてはいけない事例だと思います。
Posted by スカイラインV35 at 2010年05月05日 11:54
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